「ケーキの切れない非行少年たち」という本をご存じでしょうか。
児童精神科医で、医療少年院に勤務されていた宮口幸治先生が書かれた本です。
先生が少年院で出会った多くの非行少年たちは、
認知機能が弱く、「ケーキを等分に切る」ということさえできませんでした。
少年院では、自分のやった非行にしっかりと向き合い、反省することが必要です。
しかしそもそも認知力が低いということは、その「反省」をする力がないということになります。
宮口先生は医療少年院で、何年もの時間をかけて少年たちに、見る力や聞く力(認知機能)を養うトレーニングを行いました。
認知機能はすべての行動の基盤
そもそも認知機能とはいったいどういう意味なのでしょうか。
認知機能とは、記憶、知覚、注意、言語理解、判断・推論といった要素が含まれた知的機能を指すことばです。
あまり意識することがないことですが、人は普段から、五感といわれる5つの感覚(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)から情報を得ていますよね。
そして、その得られた情報(「見たこと」「聞いたこと」)は脳の中で整理され、それをもとに計画をたてて、実行しているのです。
その結果が、私たちがいつもとっている「行動」なのです。つまり行動の基盤は認知機能「見ること」や「聞くこと」にあるのだということです。
そして行動するうえで「見る力」「聞く力」を補うのが「想像する力」です。
ではもし、この3つの力が弱いとどのようなことが起きるのでしょうか。
「見る力」が弱いと人の表情を読むことができません。周囲の状況や空気も適切によむことができないのです。
また「聞く力」が弱いと、だれかが話すことばを最後まで聞き取ることができなかったり、また例えば誰かが独り言を言っている声が自分の悪口をいっているかのように誤解してしまう可能性もあります。 このように、最初に入る情報が間違っていると、こちらの伝えたい情報も正しく届きません 。
そして、想像する力の中で大切なものに「時間の概念」があるといいます。
時間の概念が弱いこどもは、先のことを見通せないため、将来の具体的な目標をたてることができなくなります。
すると「今これをしたらこの先どうなるのだろう」という予想がたてられず、後先考えずに行動してしまい、それが、勉強ができないことだけではなく、問題行動につながってしまう可能性があるのです。
それではまわりも本人も困ってしまいますよね。
それならば、認知機能のトレーニングをして、能力を向上させることが大切なのではないかと筆者は考えたのです。
認知機能トレーニング
では、筆者がされていた認知機能のトレーニングとはいったいどういうものなのでしょうか。
こちらは「コグトレ」シリーズとして三輪書店から出版されているものにとてもわかりやすく紹介されています。
認知機能の5つの要素(記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断)に対応する
「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」
という5つにポイントをおき、その人の発達の段階に応じやさしい基礎的なレベルからプリントでも取り組めるようになっています。
一日5分でも取り組めるので、ぜひおすすめです。
筆者によると、このように認知機能が弱いこどもたちは全体の14%、35人学級だと約5人いることになります。
学級の朝の会などで、いっせいに取り組んで、効果をあげている事例も多くあるそうです。
そしてやはりもともと知的な発達が遅れていたり、感覚の受容にかたよりがあったりするこどもは、「見る力」「聞く力」は弱い場合が多いのです。
つまり、そういうこどもたちも、認知機能をトレーニングすることが大切だということになります。
早い時期から気づいて支援していく
このような点から考えても、困っている子どもに、できるだけ早く気づいてあげることが本当に必要ですよね。
「コグトレ」シリーズはプリントがメインになりますが、まだえんぴつをもてない小さいこどもにはまた別のかたちでアプローチをすることができます。
例えば、色の積み木は、色や形、数の概念の基礎をつくる学習でも大活躍してくれます。
またKUMONからでている「わごむパターンボード」という教具がありますが、こちらは輪ゴムを指先でつかむため微細運動もきたえられますし、ボードの下絵にあわせて形をつくっていくので、見る力や想像する力も遊びながら自然に身に着けていくことができます。
このように、できれば就学前の幼児のうちから、ほかのお子さんとの違いに気づき、そのお子さんにあわせた支援を行っていくこと。
認知機能をあげて学習の基礎をつくり、その子にあった積み重ねを続けていくことがとても大切なことなのです。
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参考図書:「ケーキの切れない非行少年たち」
認知機能強化トレーニング:https://cog-tr.net/cogtr/coget/