言葉の獲得について、一般的にはどのような過程をたどっていくのかについて前回お話しました。
どのように言葉は獲得されていくのか
今回は、お子さんがスムーズに言葉を話せるようになるために気をつけたいことについてお話したいと思います。
赤ちゃんは音を選別して聞いている
言葉を話せるようになるためには、言葉を聞くことができなくてはなりません。
私たちが普段、意識せず当たり前に行っている「聞く」ということ。
実は人はスムーズに生活していくことができるように、いろいろな工夫をしているのです。
例えば
私たちは普段から音を選別して聞いています。
ありのまま、実際の音どおりではなく、脳の中で自分にとって重要な音を大きく、重要でない音は小さくなるように選別しています。
あまり、性能のよくない補聴器を使用すると、
「がーがー」という雑音がうるさくてとても使いづらいのだと聞いたことはありませんか。
それは補聴器が、どの音も同じように大きくしてしまっているからです。
人の耳は、必要な音と必要でない音を選別し、調節することによって生活しやすくしているのです。
話している人に注意を向けることの重要性
幼児にとって、母親の声を聞くことはとても重要です。
適切に聴覚機能がはたらいているこどもの場合、成人女性の声の周波数帯を感知し、そこを大きく、それ以上とそれ以下を小さくしているといわれています。
そうすることでその高い周波数帯の音(母親の声など)を集中してきくことができます。
周囲の雑音に邪魔されず、母親の声を聞き、言葉を獲得していくのです。
しかし、発達のつまずきがある子は、選別の機能がうまく働いていない。
低い周波数の音も高い周波数の音も同じように大きく聞こえるため、大事な音かき消されてしまいます。
これでは言葉を学ぶために必要な人の声を、そもそもききとれません。
注意を持続させづらいADHDの特性
今までお話してきたように、言葉の獲得のためには、「聞くこと」がとても大切です。
そして、「見ること」も同じように重要な役割をもちます。
声を聞きながら、その声がどのような口の形からでているのかを確認するためです。
赤ちゃんには、語りかけが大切だといわれる理由はここにあります。
そして、その口の形をまねすることによって、自分も同じようにその声を出せるようになっていきます。
ところが、ADHD(注意欠如多動症)の子は、注意を持続させづらいという特性があります。
動くものや音がするもの、ちょっとした刺激で注意がそれてしまうのです。
そのため最後まで話している人の口をみていることができません。
すると、言葉を話している人に注意を向けて、その真似をすることができなくなってしまいます。
その結果、言葉を話せるようになるのが遅れてしまうのです。
人に注目を向けづらいASDの特性
また、ASD(自閉スペクトラム症)の子は、もともと人に注目を向けづらいという特徴があります。
もともと人間には、物よりも人に特別な注目をむけるという性質があります。
以前はASDの人は、もともと人に関心がないのだといわれていました。
しかし最近の研究では、物にも人にも、同じ程度で注目しているのではないかといわれています。
言い換えれば、決して人に興味がないわけではないということ。
ただ、人を特別扱いしていない脳をもっているということになります。
どちらにしても、言葉を覚えるためには、人に注意を向け続けることが重要です。
このようにもともと人に注目することがむずかしいときは、手助けが必要になります。
言葉の獲得のために注意すること
赤ちゃんが、言葉を覚える時期には気をつけたいことがあります。
その大切なことをまとめてみました。
- 少し高めのききとりやすい声で話しかける
- なるべく雑音のはいらない静かな環境で話しかける
- ゆっくりはっきり口のかたちをみせながら話しかける
私たちの重要なコミュニケーションの手段である「言葉」。
人はその「言葉」を覚えるために、様々な工夫をしています。
私たちが、ちょっとした注意をはらうことで言葉の獲得の手助けができるのです。
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参考文献:「からだのためのポリウェーガル理論」春秋社
「ニューロダイバーシティの教科書」金子書房