ABAという言葉をご存じでしょうか。あまり普段、聞くことは少ない言葉だと思います。
ASDなどの発達に心配を持つお子さんのための療育方法で有効であるABAについてお話します。
ABA 応用行動分析学の考え方
ABAはApplied Behavior Analysisの頭文字をとっています。
日本語に訳すと応用行動分析という意味です。
なんだか、英語や漢字ばかりでむずかしそうですね。
こちらは、もともとは米国のスキナー(Skinner BF:ハーバード大学教授:1904-1990)という心理学者が行動分析学というものをつくりだしたところからはじまっています。
行動分析とは文字通り行動を分析するということです。
スキナーははじめはネズミなどの動物をつかった実験をおこない、それを人間の行動の問題解決に応用していくという考え方ー応用行動分析を作りだしました。
それは簡単にいうと、
人間の「行動」には法則がありどんな行動をとるかということは行動の前後に起きる出来事によってきめられていくという考え方です。
その考え方をもとに、スキナーは自閉症児に対する療育方法、特にことばを獲得するための研究がおこない、「Verbal Behavior」を発表しました。
ロバース博士の研究
そのスキナーの「Verbal Behavior」 をもとに研究を行ったのが、UCLAのロバース博士です。
1987年、ロバース博士の研究チームは、2-3歳の自閉症幼児19名に対して、 ABAを用いた療育を週40時間実施しました。
たくさんの時間をかけてこどもたちに、ことばや会話をおしえていったのです。
その結果、19名中、9名(47%)がことばやコミュニケーションを身につけることができ、普通学級に就学しました。
残り10人のうち、8人は軽度の遅れのある子のクラスに、2人が重度の遅れのある子のクラスに入りました。
自閉症をもつお子さんは、そのままだと無言語になってしまう可能性が高かったのですが、ABAの手法を使いながらことばをおしえていくことで、言語を獲得し、学習能力もアップすることが確認されました。
ABC分析で行動の法則性を理解する
では、具体的にはどのように行動を考えていくのでしょうか。
わたしたちが行動するとき、その行動する前になにかのきっかけがありますよね。
そして行動することよって、周りの人の反応(結果)があります。
たとえば…
こどもが学校の宿題をやっていてわからなかったとします。(きっかけ)
こどもは大声で「わからない、むずかしい」と泣きます。(行動)
おかあさんがすぐに助けてあげます(結果)
この行動を図にするとこのようになります。
この場合は、
こどもは
「困ったときは泣く。するとおかあさんが助けてくれる」
と学習しました。
と考えていくのです。
きっかけを「先行刺激」 Antecedent stimulus
「行動」をBehavior
結果を「後続刺激」 Consequent stimulus
といい、頭文字をとってABC分析といいます。
では、先ほどの例ではこどもが泣かなくても宿題を終えるためにおかあさんはどんな方法をとればいいでしょうか。
- 泣いてもすぐに反応せずに様子をみる
- じぶんで調べる方法をつたえてみる
- わからないときには「おしえて」といえばたすけてもらえるということを学習してもらう
などのようにいろいろなやり方を考えていくことができます。
このように、行動を細かくみて分析していくことで、よりよい結果が得られるように困った行動を減らし、解決に導いていきます。
困った行動の4つの原因
困った行動が起きているとき、その原因は大きく次の4つにわけられるとABAでは考えられています。
1.要求
たとえば、欲しいお菓子があったとします。お店で大声で泣くことにより、お菓子を買ってもらえたら、泣くことによって要求がかなうということになります。
2.回避
勉強したくないので、教室からでていってしまう。すると、勉強はしなくてすみます。このように嫌な状況を避けるために行動を起こしていることを回避といいます。
3.注目要求
注目してほしいという気持ちから困った行動が生まれている場合もあります。
例えば、弟をかまっているお母さんの注目をひきたくて、わざと水をこぼしたりするというような行動です。
注意したいのは、注目はほめられることばかりではなく、しかられることでも注目要求がかなうということです。
そこに大きく反応すると、注目してほしいときは水をこぼすという困った行動が増えていってしまいます。
4.感覚刺激
感覚を刺激することが目的で困った行動がおきている場合です。
特に発達につまずきのあるお子さんは、感覚の受容が通常とちがっている場合が多く、その結果、感覚が過敏もしくは鈍麻という状態がひきおこされてしまいます。
ABAのその後の研究 PRT
その後も研究はつづきます。PRTは、1970年代にカリフォルニア大学サンタバーバラ校のロバート・ケーゲル博士とリン・カーン・ケーゲル博士によって創設されました。
PRT(Pivotal Response Treatment)では、自閉症児の社会的およびコミュニケーション的成長を改善するために、「モチベーション」に注目しています。
こどもの「モチベーション」と「行動の自発性」が高まることで、さらに広範囲に、しかもスムーズに学習できるようになりました。
また自然環境を重視しているので、家族が日常生活のなかで、無理なく学習をさせていくことができるようになるということです。
ABAはことばや学習、コミュニケーションの発達をたすける
このようにABAは長い時間をかけて研究がすすめられ、いまも進化をつづけています。この考え方に基づいて支援することによって、ことばや学習、コミュニケーションの力をのばす手助けをおこなっていくことができます。
またABAの考え方を身に着けることで、困った行動が起きても、すぐ怒ったりせずに立ち止まって考えることができるようになります。
そのようにして親子の関係がおだやかになり、こどももお友達や先生ともスムーズなコミュニケーションがとれるようになっていくといいですね。
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